名作『バリ島物語』を読んだ感想(ネタバレ含む)
2022年8月10日
バリ島からこんにちは!ゲストライターのミオ(@mio_141227)です。
「神々の住む島」と呼ばれ、人々の笑顔は温かく、穏やかな時間の流れるバリ島。かつて、そこには壮絶な闘いの歴史があったことを知っていますか?
今回は、名作『バリ島物語』を通して、約100年前のバリ島の姿に思いを馳せてみましょう。
目次
『バリ島物語』一言でいうとどんな話?
サヌール沖にオランダ国旗をかかげた中国船「スリ=クマラ号」が座礁してからの約2年間、バドゥン王国がププタン(集団自決)によって滅びるまでを描いた物語です。
座礁した船の積み荷を村人たちが盗んだことをきっかけに、オランダとバドゥン王国の対立が激化する中、主人公パックやその家族、村人たちに起きた出来事を中心に物語が進んでいきます。
ププタン(集団自決)につながる歴史的な出来事はもちろん、当時の農民の暮らしや王宮の様子などが、さまざまな階級の人々の目線で細かく描写されています。
作中には、バリ島に古くから伝わるお祈りや風習、神に対する考え方などが数多く登場し、バリ人の根っこの部分を深く知ることができる作品です。
『バリ島物語』読む前に
物語の中には、現在のバリ島でも行われている風習や儀式などが、いたるところに出てきます。読む前に知っておくと『バリ島物語』がもっと面白くなるはず!
いつの時代の話?作者は誰?
舞台は約100年前、オランダ植民地時代のバリ島のお話です。
当時バリ島は8つの王国からなり、オランダはバリ島にある王国全てを支配下に置こうとしており、それに対抗していたのがバドゥン王国、クルンクン王国、タバナン王国。それ以外の王国は既にオランダの支配下となっていました。
その頃の日本の様子はというと、NHKの朝ドラ「ごちそうさん」をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれませんね。時代は明治から大正に移り、1904年は日露戦争が勃発した年でもありました。
『バリ島物語』の原作者は、ヴィッキイ・バウムというオーストリアの女性作家です。現代バリ芸術の父として知られる画家ヴァルター・シューピースのもとに滞在し、史実に手を加え小説化したのだそうです。
作中では、オランダ人医師ファビウスの遺した日記やメモをもとに小説化したと書かれており、このファビウス医師がシューピースのことだと言われています。
登場人物
とにかく登場人物が多いです。バリ人の名前に慣れている私でさえ、何度も読み返してしまいました笑
全員紹介するのは無理なので、主人公に近い人物たちをまとめてみましたよ!
今も変わらないバリ島の風習
100年前の描写と現代のバリの様子を比較しながら、読んでみるのも面白いですよね!
呪術師や祈祷師
物語の中では妖術使いの息子として、ベンゲックという人物が登場します。バリ島では今もそういったことが強く信じられていて、急死したりすると「ブラックマジックだ」と噂する人たちも多いです。
さらに、体調が悪かったり子供ができなかったりすると、医者へ行くよりもまずはバリアン(祈祷師)のもとへ。
今も昔も呪術師や祈祷師は、バリの人たちにとって何よりも恐ろしく、また頼りになる存在なのです。
成長に伴う儀式
バリ島では、生まれてから成人するまでに数多くの儀式を行います。成人の儀式として行われる「ポトンギギ(Potong Gigi)」は有名ですよね。
何歳のいつまでに絶対やらなければいけないという決まりはなく、お供え物にお金もかかるため、村や親戚でまとめてやることも多いです。
作中では主人公パックが、自身の母親の火葬やパック自身のポトンギギ、子供たちの儀式をあれもこれもやれていない…と頭を悩ませるシーンがあります。
バリのお葬式
バリ島のお葬式は、すぐに火葬されない場合も多いです。一度土葬し、火葬する際に掘り起こします。お葬式にはとてもお金がかかるため、3年~5年ごとに村で合同の火葬式が行われます。
王様や身分の高い人の葬儀はとても盛大で、数千万円かかると言われていますよ!
闘鶏
バリ人は闘鶏好きな人が多いです。基本、闘鶏が許されるのは大きなお祭りの時だけ。しかし、闘鶏に夢中な人たちは隠れてやっています笑。もちろん見つかれば捕まりますよ!
聞いた話では、驚くほどの大金が賭けられ、賭けたお金を払えず土地を失った人も多いのだとか…。
神懸り
お祭りの最中にいきなり暴れたり泣き出す人たちがいます。クラウハンと呼ばれ、神様が乗り移った状態?神様と一体になった状態だそうです。
話す言葉はその人自身の言葉ではなく、神様からのお告げといったところでしょうか。
村中で悪いことが立て続けに起こり、神にお伺いを立てようと村人たちが祈る中、神懸りとなったトゥラギアという名前の女性が神のお告げを伝えるシーンがあります。
バドゥン王国のププタン
物語は、このバドゥン王国のププタンで締めくくられています。1906年9月20日、オランダ人たちの攻撃に対し、怯むことなく王たちは死の行進を続けました。
オランダ人たちの銃撃に倒れる者、闘いに参加できないものはクリス(聖剣)によって命を絶たれ、王の妻たちは王から与えられたクリス(聖剣)で自害していったそうです。
クルンクン王国のププタン
物語では直接触れられていませんが、クルンクン王国もププタンによって滅びています。他の王国が次々とオランダの支配下となる中、最後まで抵抗したのがこのクルンクン王国でした。
歴史的跡地をめぐる
物語の舞台となった場所をめぐってみましたよ!
ププタン バドゥン広場
バドゥン王国のププタン記念碑のある公園です。周囲には、バドゥン王国時代の王宮跡地もあります。
スマラプラ宮殿
水に浮かんでいるかのような美しい造りのバレ・カンバン。
博物館の中にはクリス(聖剣)やクルンクンのププタンを描いた絵などが展示されています。
オンラインツアーでも紹介していますよ!
ププタン クルンクン広場
ププタン記念碑の内部には、戦時中の戦いを模したジオラマなどが展示されています。
ププタンクルンクン広場で行われた100年祭の様子はこちらから。
見どころ&私の推しメン(ネタバレ)
ここからは私自身の感想を紹介します。ネタバレありなのでご注意ください!
グッときたシーン
王アリットが王国の終末を決意し、不浄の地へと追いやられたラカのもとへ自ら訪れるシーン。
大いなる病に冒された者は死んでも焼かれず、解放されない魂は未来永劫不浄のまま…。王アリットは、終焉を迎える自身と一緒に死ぬことで、不浄を浄化し共に天国へ入ろうとラカに伝えます。
王の言葉がどれだけ彼の救いになったことでしょう…。バリの人たちは、死んだら終わりではないのです。魂は永遠に続いていくと信じている彼らにとって、不浄のまま解放されないことは、最も恐ろしく悲しいことだったはずです。
このシーンはかなりグッときましたよ!泣けます!
私的に大盛り上がりだったシーン
ドイツ人の役人をもてなすために、何時間にもわたり踊りやガムランを披露するバリ人たち。
その最中に神懸り状態になり暴れ出す人々を見て、驚いた役人の一人が「この見世物全体の意味を説明してくれ」とドイツ人管理官に言います。
そこで放たれた一言…。
「これがバリ。バリそのものなのです」
そう!そうだよね!!そうとしか説明できないよ!あんたは間違ってない!その一言に尽きる!!と激しく共感しちゃいました笑。
バリに住んで8年、日々あなたと同じ気持ちでいっぱいです。
私の推しメン!
プグルグ:パックの奥さん
仕事もできて情報通、子供を産む時も大きな声は一切出さず、後始末も自分でやった強者。第二夫人に対してはちょっぴり意地悪にもなっていましたが、肝っ玉母ちゃん感がたまらない!!
バリの女性は本当に働き者で、頼りになります。いつの時代も女は強しですね!
最後に
いかがでしたでしょうか?バリ島の歴史、ほんの一部ですがものすごく濃いですよね。私のつたない文章では、伝えきれていない部分がまだまだあります!
『バリ島物語』本当におすすめです。小説が苦手な方は、漫画家のさそうあきらさんによってコミック化もされていますよ!踊り手の動きや衣装、寺院の様子などが写真のように美しく描かれ、こだわりを感じる一冊です。
バリ倶楽部では「この時代のことを知りたい」「歴史的な場所をめぐってみたい」など、ざっくりとしたご希望をいただければ、歴史に詳しいスタッフがオーダーメイドのツアーをご提案させていただきます!
ただ行くだけ、見るだけじゃもったいない!どうせ行くなら、ディープなバリを紹介させてくださいね。
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